すきなものをあつめてたいせつにするせいかつ

絵をかいたり日記を書いたりするひとの、あられもない姿です。

お休みの日

いつのまにか、きえてしまうんじゃないか。

目の前に、手の中にある現実に対してすらそう思ってしまうようになったのは、以前お付き合いをしていた男性が突然別れを切り出してきたことがきっかけかもしれない。付き合って三か月も経たない頃に、急に、何の前触れもなく、本当に突然。私にとって、人との能動的な別れというものは初めてだった。

相手の仕事が忙しくなっているのは知っていた。しかしそれが別れの理由になるとはつゆほども思っていなかった。

 

余裕のある時に会えたらいいじゃない。

気が向いたときに連絡を取ればいいじゃない。

 

人間関係とはそういうものだと、私は思っている。家族、友人、恋人、あらゆる人間関係において、関係を続けることは義務ではない。ただ、会いたいと思うから会うし、元気にしているか気になるから連絡をしてみる。恋人だからと言って定期的に会わなければいけないとか、こまめに連絡を取らなければいけないとか、予定を合わせてデートをしなければいけないとか、そういうものではない。

関係の継続が義務になってしまったとき、それは面倒な「タスク」になってしまう。仕事でもないのにタスクを抱えるなんてばかみたいだ。

 

しかし、例の彼にとっては恋愛それ自体がそもそもタスクとして存在していたようだった。仕事もしなければいけない。彼女の相手もしなければいけない。そのうえ彼は実家暮らしだったため、家の手伝いもしなければいけない。そして忙しくなったので、優先順位の低いタスクを減らす。そういう感覚で別れを切り出してきたのだろう、と思う。あくまで私の眼にはそう映っていた、というだけで彼の本心を知ることはできないが、確かに私は「彼にとって自分自身がタスクとして存在している」と感じていた。

 

正直、私は彼への執着はそれほどなかった。当時彼のどこが好きか、と他人から聞かれても、何も思いつかず、「私のことが好きなところかな」と答えていた。自分を愛する存在というのは愛おしいものだ。強いてほかに挙げるなら、時々自分では行かないような美味しい料理を出す店に連れて行ってくれたことくらいか。だがそれも私に対する愛情があったからこそだろう。つまり、私は「私のことを愛している彼」が好きだったのだ。

それゆえに、別れを切り出されたとき、溜息とともに愛情もどこかにあっさりと流れ出てしまった。彼の一番の魅力が消えうせたのだから、好きでいる理由が無くなってしまった。この言いようのない喪失感とぶつけようのない悲しみ。別れが悲しいのではなく、自分の愛情が一瞬で消えてしまったことについて、相手と過ごした時間が無意味であったように感じてしまい、悲しかった。

 

こうしてあっさりと、すんなりと、別れを終えてしまったのだが、この経験が諸行無常の感をより確固たる自分の価値観へと組み込んでしまった。付き合うということは、いずれ別れるということ。おそらく誰もが愛する人との別れに怯えている。関係を途切れさせないように、わざわざ共に過ごす時間を生活の中のタスクとして手帳に書き込みながら、大切に、大切に、その細い関係の糸を縒り合わせている。そうしてだんだんと太くして、諸行無常にも干渉されないほどの確実な太い綱をつくりあげようとしている。

 

現在付き合っている人は、私に惜しみなく愛情を注いでくれる人だ。一番の魅力はやはりそこ。この時点ではこの関係も危うく見える。自分でもそれはわかっている。そもそも私の人を好きになるきっかけが弱すぎる。わかっているが、それはあきらめた。

 

(本当は好きな男性のタイプだってある。顔が良くてスマートで背が高くて臨機応変にものごとに対応できる、それでいて人見知りで、私にだけ懐いてくれている。そういう男性なら最高だが、そうはいかない。顔が良くてスマートで背が高くて臨機応変にものごとに対応できる男性は、多くの場合たくさんの人から人気があって、誰とでも打ち解けて、飲み会にやたら呼ばれて、広く女性にも人気がある。そういうものだと思わなければやっていられない。そして、そういう誰からも人気のある存在に、私は魅力を感じなくなってしまう。)

 

さて、今後の課題は、相手ありきではない愛情の見出し方について考えることだ。先述のようなイケメンと付き合うことよりも、自分を愛してくれる人を愛した方が、相手も自分も幸せだし、何よりも楽だ。しかしそれでは、相手の愛情が無くなってしまったとき、人を愛する縁(よすが)を丸ごと失ってしまうことになる。

 

私は愛する人に執着したい。

 

相手の好きなところ、相手が私を愛していなくても自分のものであってほしいと願えるような好きなところを見つけていかなければならない。

 

ここで、その進捗をまとめる。

・やわらかいところ(太っている)

・怒らないところ

・わりとどんな環境でも機嫌がいいところ

・趣味が互いに理解し合えるところ(前回の彼は趣味が全く合わなかった。)

・賢いところ

・大人っぽい字を書くところ

・行動が早いところ

・目の前だけでなく、遠くを見据えられるところ

臨機応変に人を傷つけないための行動を取れるところ

・無駄な争いを避けるところ

・よく食べるところ

・朝のニュースを見ながら、怒ったり悲しんだりするところ

ひとまず思いつくものを書き連ねてみたが、意外とあった。人生の課題解決に向かって、ちゃんと進んでいるのかもしれない。

 

こんなお休みの日に、飲んで帰ってきた彼はベッドに突っ伏して、腹と尻を出して寝ている。そろそろ起こさなければ。